雷光一閃夏天の暮

心にうろを抱えているとろくなことがない。
夕方、暑さもおさまってきたので買いものに出たはずが、気づいたら商店街とは別の方向に足が向いていた。
どこでもいい、とにかく歩きたかった。
なにかに突き動かされるように、ただ足を前へ前へと運ぶ。
橋の上まで来てふと後ろを振り返ると、西の空によくない雲が黒々とわだかまっているのが見えた。
引き返したほうがいいな。
たしかにそう思ったのに、なぜだか足は家とは逆の方へと進んでいく。
第二京浜を渡り、神社の前を過ぎ、小学校の横を通り、やがて知らない道に出た。幹線道路のようで道幅は広く、行き交う車も多い。
どこにいるのかいまひとつ見当がつかなかったが、まあいい。いずれどこかに着くだろう。
空はますます怪しくくもり、風も出てきたというのに、やけに呑気なものだった。
いや、呑気なのではない。
麻痺しているのだ。
車の騒音に混じって空雷が聞こえ出しても、まったく焦る気持ちも起きなかった。
幹線道路をそれて住宅街の中を歩くうちに見知った道に出て、そろそろ戻ろうかと思った矢先、ぽつりぽつりと雨粒が頭を打った、と見る間に雨が降り出し、それはやがて傘などなんの役にも立たないほどの豪雨になった。
空を圧して轟き渡る雷鳴の中、雨に白く烟る急な坂を登り、全身ずぶ濡れになってみて気がついた。
きっとこんなふうに雨に打たれたかったのだ。
この虚ろな身体を、心を、嵐のような雨に流し去ってしまいたかったのだ。
だから天気が悪くなるのを承知でむだに歩き回ってきたのだ…
雨が激しくなればなるほど、自分が救われるような気がしていた。
が、近くに雷の落ちる音がして身体にその振動を感じるに及んで、さすがに雨宿りをする気になった。
自転車置き場のトタン屋根の下で、稲光りと空を切り裂く音とをやり過ごす。
心にうろを抱えているとろくなことがない。
埋めることもできず消すこともできないこのうろを、いつまで抱えていけばいいのだろう。

陽は中天を過ぎて 2nd season

第二人生。 ここから歩いていこう、 鮮やかな夕映えのなかを。 大丈夫、自分はまだ生きている。

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