おひな様
節分の豆も食べ終わらないうちにもうひな祭りの季節になって、自分もおひな様を本棚の上に飾ってみた。
すこし前のこと、飲み会の時間までにはまだだいぶあって、買い物ついでにデパートに寄ったら雛人形の販売会をやっていた。
単なるひいきか目が慣れているせいか、やはり自分のおひな様がいちばん美男美女に見えるし、衣装の色合いもいちばん品があるように見える。
自分が生まれたころ、家族は6畳の部屋に3畳の台所があるだけの狭いアパート住まいだったので、両親は親王飾りを用意した。7段飾りを買えないぶん大きいものを選んだとかで、だから友だちのうちに遊びに行ってよそのおひな様を見るたびに、7段飾りのお道具がものめずらしくて目を奪われるものの、なんだかちっちゃくて物足りないな… なんて、失礼なことを考えていた。
小さいころはおひな様を出しながら、つい、足はどうなっているのかと人形をひっくり返しては親に怒られたものだった。女雛は袴姿なので足なんぞないけれど、お内裏さまには小さな白い足がちゃんとあって、なぜか必ず足をくすぐってみたくなるのだった。
家を出てしばらくはおひな様のない生活をしていたけれど、やはりこの季節になるとなにとはなしに郷愁を感じるので、何年か前、和雑貨のお店で手のひらサイズの人形を買った。肩を寄せ合うちいさな人形はぷっくりした顔にほんのりと笑みをうかべ、実家のすました美男美女とはまたえらい違いだけれども、見ている自分にもその笑顔が移る。
ひとはやはり笑顔のほうがいい。
どうか、私もあなたもだれもかれも、笑って日々をすごせるように。
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