99.999999999%

残業があって助かった。
気がついたら時計は8時を回っていて、僕は首を左右に軽く振って固まっていた骨をぽきぽきと鳴らすと、手元を片付けて席を立った。目の奥が重たい。
まだPCの画面とにらめっこしたままの同僚たちに、お先、と声をかけて会社を出る。
日中からずっと煮詰まっていたせいか、頭も身体もへんに熱を持ったみたいで、外気の刺すような冷たさがちょうどいい。
会社前の交差点で信号待ちをしながらとっぷりと暮れた空を見上げて、ふとため息をつく。
今日は僕の誕生日、だったんだよなあ…
同僚たちには特に教えてもいないから、誰もなにも言ってくれるはずもないし、僕も会社の仲間にそんなことを期待してはいない。
けれど。
君は覚えていてくれるんだろうか。
いい年をしていいかげん少女趣味だと思いつつも、こんな日に待っているのは君からの言葉だけで。
… いや、そもそも望みはまだあるのかな。
もう終わっているのかな。
僕は君の気持ちをはかりかねたまま、ただこの数か月を過ごしてしまった。
どうするのが正解だったんだろう。
どう言うのが正解だったんだろう。
女性ならいざ知らず、誕生日にケーキという年でもないから、いつものように弁当を買って黙々と食べて、からんと割り箸を空の弁当箱に放ったら急に寂しくなった。
ケーキでお祝いしてもらったのなんて何歳くらいまでだったろう。
小さいころは母さんがふわふわのショートケーキを作ってくれた。
高校に入ったころには姉さんが、三段活用とか称して自分の食べたいケーキを買ってきて、僕にはお祝いとして一個だけ選ばせて残りは自分の胃袋に収めていた。
君とは、一緒に祝うよりも前に関係があやふやになってしまった。
メールでも電話でもなんでもいい、君が僕のことを思い出してくれないだろうか、なんて思っている。
僕にとっては区切りの一日でも世の中の99.999999999%の人にとっては、ふつうの日でしかない。
僕の特別のひとだった君。
本当はもう、わかっているんだ。
君も、その99.999999999%の中に戻ってしまったのだろうか。

陽は中天を過ぎて 2nd season

第二人生。 ここから歩いていこう、 鮮やかな夕映えのなかを。 大丈夫、自分はまだ生きている。

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