遠い面影
「藤原流万葉集の歩き方」藤原茂樹
何年も前、万葉集を読破したことがある。
詞書のある歌はそれがヒントになってどんな情景の歌なのかがわかるけれど、詞書もなくただ歌だけがずらずらと並ぶ巻11、巻12あたりは言葉の意味もはっきりとはわからなくてもどかしく、靄のなかを適当に歩いているような感じで、読み続けるのが辛かったことだけ覚えている。
それはきっと、万葉の時代から遠く隔たって、言葉も生活習慣も素朴な宗教心も、さまざまなことが大きく変化してしまい、言葉が心に刺さりにくくなっていることと無関係ではないのだろう。
藤原先生は単に机に向かって書物を案じているだけではなく、日本全国を歩いて民俗を調査しているようで、その経験や知識が血の通ったものとして万葉の歌を私たちの前に現出させてくれる。いまも各地に残る昔からの習俗が万葉の歌へとつながる、それがとても興味深くて面白い。
私たちは教科書や文庫本といった「書かれたもの」の形で万葉集に接するからつい忘れがちたけれど、この古い時代の歌は単なる文字の連なりではない。昔々の日本に生きた人たちがその思いを口にしたものなのだ。
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