残りの時間
人の命というものがいかに当てにならないものかということを改めて知る機会があった。
そして甘粕正彦の言葉を思い出した。
「人間というものは、一度別れてから、再び会えると思うのは間違いです。一度別れたら、永久に会えないと思うのが正しいのです。この度、私は命を帯びてヨーロッパに遣いすることになりましたが、一度別れたならば、再び会えないと思ってください。」
最初は、ずいぶん大げさなことを言うものだと思った。しかしこれは、決して戦前の世情騒然とした時代状況のせいではない。今日、さようならと挨拶して別れた人と明日も会える確証はどこにもない、それは当たり前の真実で、日常に堕しているうちに忘れているだけのこと。
仕事でも家でも、面白くない思いをすることはあるだろう。
けれど。
この短い人生でほんの少し出会ってすれ違っていく人たちとの時間は惜しむべきものだ。自分の残り時間も相手の残り時間も、誰にも分かりはしない。
こんな考えは本当にしんどい状況に置かれていない傍観者のきれいごとにすぎないけれども。
それでも。
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