ペルシャの布


食器棚兼台所の作業台にしている小さな棚があって、白地に薄茶の太い縞もようの布を目隠しがわりに掛けてあるのだが、なにしろ扱いが雑なもので、急須のお茶をこぼしてみたり、ココアの粉をこぼしてみたりするうちにすっかり茶色くなり、漂白剤を使っても落ちなくなった。
そろそろ替え時だと、新しい布を探しはじめてどのくらいだろう。棚の下のほうまで覆い隠せるような大判の布で気にいるものはなかなか見当たらず、いたずらに茶色のシミは濃く広くなるばかり。
いっそのこと表裏ひっくり返してみるか? などと思っていた矢先の昨日、自由が丘デパートを歩いていてペルシャ絨毯の店を通りかかった。
これまでもなんども店の前を通ったことはある。が、お客がいるところを見たことはとんとない。
こういう、主人がひとりきりでひっそり閑としているお店は、入ったはいいがなにも買わずに出てくるのは心苦しいもので、いつもなら敬遠するのだけれど、入り口から覗き見えた青い布に惹かれてドアを押してみた。
白地に青いペイズリー模様の布。
何種類か出してもらい、これは小さい、あれは大きすぎるし値段が高い、となんのかんの居座ってようやくこれに決めた。
丸く裁った布に丁寧に柄がつけてある。
遠いペルシャからやってきた布。見たこともない街の、知らない職人さんが、こつこつと判を押して創り上げた布。
「いいものですよ、15年は使えます。しだいに手触りも柔らかくなっていきますよ」
店主はそう言ってにこりとした。
15年。
ものの扱いがぞんざいな自分だけれど、ちゃんと大事にしてあげたい。

陽は中天を過ぎて 2nd season

第二人生。 ここから歩いていこう、 鮮やかな夕映えのなかを。 大丈夫、自分はまだ生きている。

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