虹はまたいつか
「五色の虹ー満州建国大学卒業生たちの戦後」三浦英之
長年、満州にそこはかとない興味を抱いてきた。けれど、それは映画「ラストエンペラー」とかのイメージが基になったような、実態とはほど遠いもので、あの国にも大学があったということすら知らなかった。
建国大学。
満州国の最高学府。
帝大に合格する以上に厳しい試験を経てきた学生たちには日本人だけでなく、中国、朝鮮、モンゴル、ロシアの各民族がいて、しかも6年間の寮での共同生活。
そのうえ、あの時代にもかかわらず言論の自由が保証されていた。敵を批判するにはまず敵を知るべしということで、図書館の蔵書には日本では禁書扱いの共産主義の書籍も含まれていたし、学生たちが議論で日本政府を批判するのも自由。
満州国という特殊な国に設立された大学であり、将来の満州国を担うエリートを育てるという目的があったことを差し引いても、かなり惹かれるものを感じる。
日本の敗戦後に建国大学の学生や卒業生たちが辿った人生には簡単に感想を述べることもできない。
ただ、彼らの言葉をこうやって残してもらえてよかった。
取材が行われたのは2010年のことであり、卒業生がほぼ90歳代になっていたことを考えれば本当に最後の機会だった。
あのとき満州国が掲げていた、世間を欺く「五族協和」のお題目は消え去ったけれど、そのお題目を実現させるという夢のなかで懸命に生きた人たちの想いはこうして本に掬い上げられて残り、いつかまた美しい虹をかけるかもしれない。
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