桜の土堤
大井町駅と品川駅の間には見事な桜の並木があって、毎年この季節には車窓からの花見を楽しんでいる。
桜たちは今年も、この憂鬱な世情とは関係なくその花を咲かせていた。
コロナ対策で午後半休となって、めっきり乗客の少なくなった京浜東北線で帰ってきた。
週末、家にいたときは特になにも感じていなかったのだけれど、今日会社に行こうとして街に出てみて人の少なさに驚いた。オフィスもまるで休日出勤の日のように閑散として、人の声もほとんどしない。その活気のなさに、なにかが心に忍び込んでくる。
大井町駅に着いてがら空きの電車を降りる。
駅の端まで歩いて階段をぽとぽとと上る。
階段を上りきると大きなガラス窓で、その向こうに桜の土堤が見渡せた。
毎年変わることのない、この景色。
しばらく前に大井町駅を北側に伸ばして、そこに新しく階段が設置された。
が、たいていの人は階段ではなく、改札に近いエスカレーターのほうを選んでしまう。ただ黙々と、歩いていてもエスカレーターに乗っていても、手元の小さなスマホの画面だけに視線を落として。
もったいないことだ。
目をあげれば、そこにこんなにきれいな景色があるのに。
今年も変わらず桜たちは咲いている。
昨日の雪にもかかわらず。
きっと私たちの毎日にもまたちゃんと日が差すだろう。
咲いたばかりの桜に打ちつけた雪が溶けて、それでも散ることなく花が咲いていたことに希望を重ねて、カメラのシャッターを切った。
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