浜名湖・今切口ー20170829

浜名湖が海につながる、その部分を見たいと思っていた。
昔々の大地震で地形が変わって、それまでは陸地だったところが決壊して海とつながったという今切口を。

新幹線で通りかかったことはあっても、降りたことのない浜松で電車を乗り換えて弁天島へ。
8月最後の週の平日、シーズンなら多くの海水浴客で賑わうのだろうプラットホームはがらんと広く、陽射しだけがまだ真夏のまま。

駅の出口すぐ横の観光案内所で周辺の地図でももらおうと思い窓口から中を覗き込んでみたが、係のお兄さんは机に向かってスマホに夢中で人が来た気配に気づく様子もない。仕方がないので、駅前の案内板でだいたいの地図を頭に入れて歩き出す。
駅前はホテルやらマンションやらが並んでまるきり眺望が利かないが、舞阪へと渡る橋の上に立つとさっと視界が開けて、なかなかに感動的だ。

橋を渡りきったところに立つ常夜灯の側で浜名湖を見渡す。視界の先に、やたらと高いところを走る大きな橋が目に入る。国道1号線、浜名大橋。ちょうどあのあたりが今切口のはず。
遠いな… しかも暑い。黙って立っていてさえ、汗が止まらない。
けれどわざわざここまで来たのは、あの橋の下にあるはずの湖の入り口を見るためだ。遠くても暑くても、そりゃ歩くさ。

真昼近く、漁を終えた船がずらりとならぶ波止場沿いにしばらく歩き、ふと気がついた。潮の香りというものが、ほとんどしない。
実家近くの東京湾の方がよほど磯くさい。
波止場の端、日に晒されて色の落ちた水神様の小さな祠の傍から車道にあがり、海岸沿いの松林を目指す。松林の向こうはすぐ国道で、その国道をくぐって海岸に出られるようだ。「海岸を見学できます」という看板が出ている。
「見学」という単語に妙な感じは覚えたものの、海を見たい気持ちが勝って、ちょっと寄り道する気になった。蔓性の植物が垂れ下がる小さな隧道はあまり気持ちのいいものではなかったが、とりあえず進む。
そしてがっかりした。
海が遠い。
そのうえ津波対策の防潮堤工事で、工事現場特有の荒れた風景が目の前に広がっていた。
なるほど、だから「見学」なのだ。
… こんなところでなにやってるんだろ、見たかったのはこれじゃなくて、今切口だよね?
気を取り直して来た道を戻り、人影のまったくない松林沿いを道なりに歩く。

やがて道は「有料駐車場」とやらにたどり着き、無人のゲートに行き先を阻まれた。
ゲートのすぐ脇には、湖沿いにコンクリートの道が伸びている。が、こちらには「関係者以外立ち入り禁止」の看板が。
誰もいやしないのに「立ち入り禁止」と書かれているだけで足が止まるのは、日本人的な律儀さの表れだろうか…
しかしせっかくここまで来て、こんな看板ひとつに足止めを食らうというのもどうなんだろう。
未練たらしく、看板から2、3歩先に進んだところで景色を眺めていた時だった。
後ろから男性がやって来て、無言で通り過ぎていった。
まったく迷いなくザクザクと歩いて行き、見る間にその姿が小さくなっていく。
もしかして工事現場の人なのかな。
後について行ったら怒られるかな。
けどまあいいか。
怒られたら謝って戻ってくるだけのことだ。
風が強くなった。
帽子のつばを押さえて、自分もザクザクと歩く。
そしてほどなく念願の場所へ。

着いてみればそこには釣り人たちがちらほらしていて、さっき自分を追い越して行った男性は少し高い場所に座り込んで釣り人を眺めていた。
浜名大橋の巨大な構造物に圧倒されながら、今切口を眺める。きらきらと光のかけらを散らした浅緑の遠州灘。海と湖の境。対岸の新居の公園。穏やかな湖面。
海はどれほど見ていても飽きることがなく、ただただそこに立ち尽くしていた。
それは、贅沢な時間。

陽は中天を過ぎて 2nd season

第二人生。 ここから歩いていこう、 鮮やかな夕映えのなかを。 大丈夫、自分はまだ生きている。

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