気前よく、温かく。
「秀吉の接待 ー 毛利輝元上洛日記を読み解く」二木 謙一
いやあ、上洛ってどれほどお金がかかるんだ… って感じ。本文中に、戦をするのと同じくらいの費用がかかる、と書いてあったけれど、本当にそうだ。
毛利ほどの大大名にもなれば体裁を立派に整えなくては笑いものになるとはいえ、引き連れて行った家臣団は三千人。これほどの人数がいたのでは道中や都に着いてからの宿の手配だって並大抵の苦労ではない。
宿に泊まれば主人に謝礼をはずみ、都ではあちこちの公家や武家に挨拶回りをし、挨拶に行けば当然、太刀だの馬だの銀子だのの進物を捧げ、官位を貰えば皇室や朝廷の人びとに残らず御礼をし… 漏れのないよう失礼のないよう、差配した裏方は本当におつかれさまだった。
そして2ヶ月ほどの上洛期間中、しょっちゅう宴や茶の湯によばれて出かけていく輝元の様子を見ていると、トップはトップで大変だよなあ、と思う。前夜、宴で午前様だったのに、翌朝6時には朝の茶会に招ばれて相手の屋敷にいる、なんていうことがザラなのだから。
輝元を迎えた秀吉の接待ぶりは噂にきく人たらしそのもののようだけれど、あざとさというものはあまり感じない。この人物のもつ明るさの故だろうか。
上に立つ者は気前よく、温かく。
人間は存外、相手の心の底を見抜いてしまう。
一見笑顔で話を聞いてくれている人が、ほんとうはこちらを見下している、そんな空気は簡単に感じ取れてしまう。そういう人にいつまでもついていくことはできない。
上に立つ者だからこそ、相手を簡単に切って捨てるのではなく、自分についてくる者への温かみを、寛容さを。
相手にばかり贅沢な望みをかけていると、妄言だと言われるだろうか…
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